昨今、ニュースなどでコンプライアンス(法令遵守)の重要性が説かれて久しく、コンプライアンスができていないと会社にリスクが生じる、ということは周知の事実です。
ですが、コンプライアンスをするためには経営資源を割かなければいけませんし、コンプライアンス部門の介入が営業活動に対する制約に思えることもあります。
そのため、多くの企業・官公庁では、コンプライアンスが重要だと頭ではわかっていても、後回しになっていたり、制度を作っただけで形骸化していたりと、なかなか十分な体制を作れていません。
コンプライアンスの重要性は、実際に会社の不正・不祥事が生じたときに身に染みてわかります。
当事務所は、会社のコンプライアンスと不正・不祥事対応(危機管理)を専門領域としており、様々な企業から、危機管理のご依頼を受けています。
不正や不祥事で対応を誤れば、長い時間をかけて作ってきた会社の信用が失われますし、経済的損失もとても大きくなります。
中小企業ではもちろんのこと、大企業でも会社の存続に関わる問題になることもあります。
例えば、コロナ禍において大きくニュースなどで問題となった助成金不正受給は、言い方をかえると国に対する詐欺行為です。
不正受給をしたとして公表されれば会社や経営者の社会的信用が失墜しますし、最悪の場合刑事事件化して逮捕されます。
また、不正受給が発覚すれば従業員の離職が生じるでしょうし、社内の対応コスト、助成金返還、弁護士費用などの経済的損失も甚大です。
また、脱税事件で言えば、会社が大きな利益を上げている場合に問題になることが多いです。
脱税が発覚すれば脱税した額よりもはるかに高額の追加納税が生じますし、経営者が逮捕されて大きく報道され、信頼と名誉を失うこととなります。
脱税事件に関わった税理士は、資格を失って仕事ができなくなるリスクが出てきます。
このような危機に陥った会社の経営者は、この先どうなってしまうのかが不安で夜眠れない、食事が喉を通らない、などの苦しい時間を過ごした後、当事務所にいらっしゃいます。
その方たちは、必ず、「もっとちゃんとしておけばよかった」「こんなことになるなんて想像もしていなかった」などという後悔の言葉をおっしゃいます。
そして、危機管理が終了して会社が生き残った後は、もう危機を起こさないように、コンプライアンスに経営資源を用いるようになります。
コンプライアンスの重要性と必要性
コンプライアンスは、人間における健康のようなものであると考えていただけるとイメージしやすいかもしれません。
健康に配慮しなくても、ある程度の期間は実害が生じません。
ですが、健康をおざなりにし続けると、いつか必ず、そのツケを払う時がやってきます。
そのツケをいつ払うことになるのかはわかりませんし、気がついたときには大手術が必要になるかもしれませんし、生き残れるかわからないということもあり得ます。
インターネットにより情報の発信も入手も容易になり、インターネット以前とは比較にならないほど、情報が透明化されています。
また、SDGsやESGへの関心の高まりに現れているように、「社会善」への指向も高まる一方です。
地球環境や地域コミュニティなどの社会に対して良いインパクトを与える活動や製品、サービスのことをいいます。
コンプライアンスや社会善を意識・配慮していることは、取引先や就職先を選ぶ際の考慮要素となってきています。
最近では、高級ファッションブランドにおいても急速にリサイクル・アップサイクル製品が売られるようなり、コンプライアンスや社会善は21世紀のトレンドとすら言えます。
このような環境下ですので、コンプライアンスの重要性は増す一方です。
コンプライアンス違反の具体的な事例
コンプライアンスがなされていなかった結果生じる問題は多岐にわたります。
様々なコンプライアンス違反事例を具体的に紹介します。
(1)労働問題
未払賃金支払請求・違法残業(長時間労働)といった労働時間に関わる問題、セクハラ、マタハラ、パワハラといったハラスメント問題、安全配慮義務(従業員が安全に働ける環境の不整備)などの労働者と会社との間の問題は、古典的な問題です。
良い従業員は会社のとても大切な財産です。
従業員の労働環境を適切かつ適法にすることは、良い従業員を維持するために大切です。
(2)助成金等の不正受給
政府はさまざまな助成金・補助金制度を作っています。
助成金・補助金は、適切に利用すれば、企業にとってとても助けになります。
ですが、助成金・補助金の受給を受けるために虚偽の書類を提出するなどすると、詐欺罪などの刑事処罰を受ける可能性があります。
不正受給問題は、助成金・補助金が多発したコロナ禍において大量に発生しました。
(3)脱税
脱税は古典的な企業不祥事です。
納税額が少なくなるようにわざと(故意で)資料を操作していた場合に脱税となります。
誤り(過失)の場合は脱税扱いでなく修正申告等で対処できることとなります。
脱税の手法は主に架空経費(経費を捏造して利益を下げること)と売上除外(売上を隠して利益を下げること)です。
国税局査察部(いわゆるマルサ)による調査が入った場合、逮捕・勾留といった身柄拘束につながる危険があります。
また、国税局の税務調査から脱税の捜査につながることもありえますので、マルサではないからと油断するのも危険です
(4)横領
飲食店などの現金取引の多いB to Cの事業で店長が売上を懐に入れる、振り込み権限を持っている経理担当者が預金を自分の口座に振り込んでしまう、といった横領が典型的です。
横領も、コロナ禍において増えました。
コロナ禍においてキャッシュレス決済が増え、B to Cの事業では特に売上管理が難しくなりました。
そのため、店長などの現場責任者が売上を誤魔化して横領しようとする機会が生じやすくなりました。
また、リモート勤務をしていると従業員に目が行き届きにくくなり、この点も横領につながりやすかったといえます。
(5)背任
循環取引(会社の発注権者Xが、特別な関係にある第三者Yに発注してその第三者からXやXの家族が経営する会社に下請けさせる取引)やリベート目的の取引が典型的です。
これらは、会社に見えるお金の流れからは気が付きにくいという特徴がありますが、被害額が大きくなりがちであるため、会社に発生する損害が大きいです。
時代の変化とともに会社に対するロイヤルティは低下していますので、背任が生じ難い体制作りを強化することが望ましいです。
(6)贈収賄・談合
贈収賄や談合は、公共工事などにおいて古くから発生します。
小規模な地方公共団体においては官製談合となることも多く、毎年検挙者が出ています。
贈収賄や談合は、気がついたら弱みを握られていたり、古くから続いていてしがらみがあったりと、「やめたい」と思っている関係者がいてもなかなかやめられないという特徴があります。
(7)情報漏洩
企業や官庁から機密情報や個人情報が漏洩する事案です。
IT化が進むと情報の集約が進むため、情報漏洩が生じた場合のリスクが高くなります。
個人情報の漏洩が社会的信用を失うことは言うまでもありませんし、営業上の秘密については、早期対処しなければ取り返しのつかない損害が生じることがあります。
同業他社に引き抜かれた社員が企業秘密を漏洩したり、社員が社員の地位を維持したまま機密情報を漏洩し、会社に損害を与え続けることもあります。
(8)インサイダー取引
従業員等が、インサイダー情報を用いて市場で利益を上げたり損失を避けようとすることがあります。
会社の良い情報を知った従業員が公表前に自社株を買ったり、自社の株式を持っている従業員が会社の不祥事を知って慌てて市場で株式を売却することもあります。
インサイダー取引は、罪の意識が薄かったり、事態の深刻さを理解していなかったり、といった軽い気持ちで行われることが多く、事前の教育により予防し、会社の信用を守ることができます。
(9)粉飾決算
粉飾決算は、常態化している中小企業も少なくありません。
経営がうまくいっている間は問題になりづらいですが、経営が行き詰まってきたり内部通報があったりすると一気に表面化し、会社と経営者を危機に陥れます。
会社は信用を失って存続が危うくなりますし、経営者も、上場企業であれば金融商品取引法違反になったり、中小企業でも会社方違反、特別背任罪、詐欺罪などになり得ます。
コンプライアンス違反が発生する原因
不正が発生する条件の整理として「不正のトライアングル」というものがあります。
「不正のトライアングル」とは、動機、機会、正当化のことです。
横領事件を例に説明すると、以下のとおりです。
・「お金が欲しい」という動機
・「自分一人しかお金を管理していないから横領してもバレなさそう」という機会
・「自分の働きに対して給料が安すぎるから会社のお金をとってもいいのだ」という正当化
また、このような故意の不正原因の他に、過失による不祥事の原因として「無知」や「事なかれ主義」があります。
無知は、規制産業において規制を知らない、助成金の申請について適切な申請方法を知らないといった、ルールに関する無知が多いです。
また、事なかれ主義は、「おかしいかもしれない」と気が付いた人が、「おかしい」と言い出さないことにより、社内で問題に気がついていた人がいたのに会社として適切な対応ができない場合です。
コンプライアンス違反を防止対策の流れ
会社における不正・不祥事防止は「ここで完成」というものはなく、日々改善し、体制を維持向上しなければいけない性質を持ちます。
また、不正・不祥事の防止がビジネスの邪魔をしては元も子もないため、事前防止をしようとする場合、まず以下の流れで検討していただくのが適切です。
1 社内のリスクの洗い出し・調査
飲食業であれば横領、旅館業であれば勤怠管理、IT業であれば背任、外国人雇用における不法就労など、業種・業態に共通するリスクがありますので、まずはこのような業種・業態に普遍的なリスクから洗い出し、会社にどのようなリスクがあり、どのような優先順位で対処していくかを検討します。
2 社内方針・規定の作成
対処していく順番が決まったら、社内で守るべきルールを作成します。
ルールが明確になっていないと従業員に徹底することができませんが、細かすぎたりわかりにくかったりするとビジネスに悪影響が出ます。
必要十分かつわかりやすい、実行しやすい、ビジネスにブレーキをかけないルールにする工夫が大切です。
3 組織体制の構築(相談窓口の設置含む)
ルールが決まったら、ルール違反や疑義が生じた場合に対応する体制を組みます。
相談窓口を設置したり、ご意見箱を設置する、ということが一般的です。
規模が大きくなければ、社長や幹部クラスの方が相談窓口等を兼務することになりますし、大きな組織では専門の窓口をもうけるべきです。
4 コンプライアンス研修の実施
従業員は、常に会社や自分の業務を中心に考えており、コンプライアンスのことを積極的に考えられている人は多くありません。
そのため、定期的にコンプライアンス研修を行い、注意喚起することが大切です。
研修は、難しすぎたり長すぎたりすると十分に伝わりませんので、会社や従業員の状況・能力に応じて適切にかげんするべきです。
5 弁護士へのアクセス(チャットツール)
疑義が生じたときに気軽に専門の弁護士に相談できる環境を作っておくと、細かい疑義を一つずつ潰していくことができるため、会社が日々改善していきます。
そのため、できれば顧問弁護士をつけ、気兼ねなく相談できる環境を用意しておきたいところです。
顧問ではない弁護士に都度お金を払って相談するのではどうしても相談をしなくなりますし、顧問弁護士に相談するときに予約制で対面や電話での打ち合わせをしなければいけない場合、迅速に相談できません。
上原総合法律事務所では、顧問先にお客様とチャットツールで連携し、いつでもチャットツール上で相談できるように体制を整えています。
細かい簡単な質問であれば、チャットツールでたりますので、迅速な質問・回答が可能となります。
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上原総合法律事務所では、元検事の弁護士5名を中心として活動しているというバックグランドを活かし、特に不正・不祥事を中心とする企業のコンプライアンス・危機管理を専門として活動しています。
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